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6月, 2018の投稿を表示しています

患者が手の届く範囲について考える

ベッド上で安静にしている患者が関与出来る環境は本人が手の届く範囲である。特に ベッドガードなどで動きが制限されている患者は 、 自分の意思を実行す る ために設備的な配慮が必要となる。 ここで言う設備とは主に個 別の照明や空調(可能な場合)などを制御するスイッチ類であり、日常使用する物品を配置する収納設備であるが、今日ではパソコンやスマートフォンの使い勝手や病室内の使用についてのルールなども物品の配置に関わってくる。 個別照明のスイッチなどは従来からベッドに近い位置の壁面に設置されているが、これが 健常者にとっては近いように思えてもベッド上の患者にとっては入り切りに苦労する距離なのである。 ナースコールのリモコンと一体化するという考え方もあるが、あまり複雑なリモコンであると緊急時の呼び出しに支障があるかもしれない。そこで、日常使うスイッチだけをまとめてリモコンに配置することは出来ないだろうか。最近では住宅のスイッチの多くがリモコンになっていることを考えれば、困難なことではないと思う。 一方収納設備であるが、常時使用する物品のスペースとしては、奥行きよりも間口を確保して手が届き易い棚の上に必要な物品があるという形態が好ましいのではないか。その際地震対策として、手前に低いガードの設置は必要である。着替えなどには奥行のある収納設備が好ましいが、これらは日常手の届く範囲にある必要はない。このように患者が使用する物品の種類を見極め、適切な収納方法を工夫する必要がある。頭床台の上をテレビが占有する現状は 必ずしも入院患者の使い勝手に配慮しているとは言い難いのである。 例えば、 取り出しやすい位置にティッシュ、本、時計、お茶のボトル、スマートフォンなどの置き場があり、鍵のかかる引き出しに財布などの貴重品がある。そしてやや離れて予備の衣類などの収納スペースを配置する。こうした 収納設備についてその合理的な形態と規模を導き出すためには、患者が必要とする物品の内容をヒアリングし、運営側の判断を交えて適切な収納設備を計画する必要がある。使い勝手の良い物品管理は患者だけでなく、病棟をを運営するスタッフにとっても効率的な職場環境に寄与するものである。

療養環境として見直す洗面所の役割

療養環境としての洗面所について考えてみたい。入院中の患者にとって、洗面は数少ない生活行為の一環であり、主体的に身の回りを清潔にするために与えられた機会である。そうした行為を自らの意思で比較的自由に行えるということは、健康な人たちには当たり前のことであっても、入院患者にとっては切実な願いであろう。 生活行為を大まかに分解すれば、洗面・歯磨き・食事・排便・排尿・着替え・入浴(シャワー)などがある。患者は必ずしもすべての行為を介助なしに行えるわけではないが、身の回りのことを支援してもらいながらも主体的に行うことは回復過程にある患者にとっては喜びであり、日々の「生活の質」を高めることにつながる。さらに 洗面所には洗面という機能とともに、整容という役割もあることを考えれば、ゆとりのあるスペースとプライバシーへの配慮が望ましい。 病棟の洗面所の設置場所やそのレイアウトは病院によって様々であるが、従来病室の窓際正面などに洗面台が配置されることが多く、これは動線が短いというメリットがあるが、近くのベッドの患者に対する利用者の気遣いが生まれるなど、一長一短がある。最近新築される建物ではむしろ病室の廊下側を仕切って比較的広い洗面台を配置するケースも多く、さらにその向かい側にトイレを設置してプライバシーに配慮する計画も見られる。 洗面所のスペースを十分に取れないようであれば、明るいデイルームの一部を仕切って、洗面のためのスペースにしても良い。あるいは窓に面した病棟の端部に洗面コーナーを配置することもあると思う。朝起きて初めに行う洗面・整容だからこそ、身体に障害のある患者でも座ってゆっくりと、あるいは隣の人と会話をしながら過ごせる所であってほしい。 狭くて陰鬱なスペースでは病棟計画として不十分であり、工夫の余地があると思う。 洗面所はトイレに比べて必ずしも生理的に急を要する所でないと考えれば、病棟における位置は、動線よりも快適な空間を優先することで良いのだが、それは付加価値としてのアメニティである。なぜならば処置後の手洗いとしての機能はスタッフも使用するため、病室廻りに必要だからである。逆に言うならば、機能を優先するために、今日まで洗面設備がベッドに近いことによる患者のプライバシーへの課題があったとも言えるのである。これからは看護と療養のための機能を両立させる病棟計画が実...