スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

7月, 2018の投稿を表示しています

療養環境として見直すベッドの役割

患者の療養環境にとって大切な要素であるベッドについて考えたい。身動きの取れない 患者には身体に近い場所から切実な問題が発生する。とりわけ絶対安静の状態にある患者にとっては、ベッドまわりが環境のすべてである。我々は静かに寝ている状態でも少しずつ体を動かしながら、リラックスした状態を保っているが、絶対安静の患者はベッドによって与えられた環境に身をゆだねるより他ないため、横たわったままによる苦痛の解消は切実である。 重症化すれば床ずれなど様々な症状が発生するが、その前に安静状態で長期間横になっていいれば、背中の痛みなどの苦痛が伴う。 医療用のマットレスは、寝心地以外に、看護のし易さ、掃除のし易さ、耐久性など様々な要素で決められているのであるから、 必ずしも 絶対安静の患者や 長期間の入院を余儀なくされた患者にとって十分に快適な環境であるとは限らない。しかしながら様々な条件をクリアして、 出来る限り患者の立場で快適な療養環境をを見出すことは、結果的に体力の回復を早める意義がある。例えば マットレスの快適さについて、実際に使用している患者からヒアリングをすることも改善には有効な手法ではないだろうか。どのようなところが苦痛か、どのようにすれば良いか、言葉によって理解することも必要だと思う。患者の入院期間、安静状態、疾患の内容などとの関連性も把握し、その結果がマットレスの性能に反映されれば良い。その際、求められるマットレスは1種類であるとは限らない。 環境という側面から療養について考えるならば、24時間臥位という同じ姿勢を取るのではなく、少しでも日常の姿勢に近付けるために休息や睡眠の姿勢に変化を与えることも必要ではないだろうか。一定の時間を座位で過ごすことで、安静時の肉体的・精神的な苦痛を和らげることはできる。背中を起こすだけではなく、足をおろして完全な座位になれるベッドもある。これからの医療用ベッドは臥位、半臥位、座位など患者が様々な姿勢をとれるように、快適な環境を積極的に補助する役割が必要ではないかと思う。 従来病院建築は、建物本体が完成すれば設計者の役割はそれで終わりで、ベッドの搬入はその後行なわれていたのであるが、療養環境を完成させるという意味では、ヒトと環境とのインターフェイスとなるベッドの性能を見極めることが重要な要素であると考える。 ...

明かりは心と体を癒す素敵な素材

私たちは環境への順応性があるから、部屋の明るさと療養環境は関係がないと思われるかもしれないが、本来は与えられた環境をその日の体調に合わせて調整出来ることが好ましいはずである。ただでさえ入院患者はベッドの上に1日中留まるという制約があるのだから、環境を通じて心を開放する手立てを考えなければならない。 長期間入院された経験のある方であればお分かりと思うが、夕方日が陰ってくると、なんとなく陰鬱な気持ちになる。雨の日もそうだ。朝になればカーテンを開けて、日光を取り入れたい。要は自分の気持ちに合わせて選びとれる建築・設備環境が療養にとって大切なのだ。カーテンで閉め切ったベッドで1日を過ごすことにより、日照時間が短くなる地域に出現しやすいと言われる「季節性うつ病」のような心の状態を発生してしまうと思うのは杞憂であろうか。穏やかな光や空気は私たちの心と体を癒す大切な要素であると思う。 4床室の場合、廊下側のベッドも自然光を取り入れるための配慮が必要である。しかしながら現状では、ほとんどの病院でプライバシーを求めるため、患者はベッド廻りのカーテンを閉じている。当然、日中廊下側のベッドに入る自然光は相当低減される。個室的多床室と呼ばれる凸型の平面形で奥のベッドの脇にも窓を配置する設計もあるが、やや複雑な形態となる。そこで光を取り入れたい窓側の方向である隣のベッドとの間をカーテンで仕切るのではなく、立ち上がった位置で目線が届かない固定家具で仕切るという方法がある。例えば病室の天井の高さが2.5mあるとして、仕切り家具の高さを1.6mとすれば、0.9mの高さの開かれた空間が生まれ、そこから自然光を取り入れることができるのである。 明かりというテーマはそれが自然光であれ人工照明であれ、明るければ良いのではなく、どのようにコントロールするかが重要である。夜間は消燈までの間、病室の照明を一定の明るさに維持するより、時間帯によって明るさが変化してゆく方が良い。睡眠に入る直前まで通常の明るさで、突然消燈するというのでは心に違和感が残り、なかなか睡眠に入ってゆけない。微妙に照度を変化させることは困難としても、せめて2段階ぐらいの照度設定は出来ないものか。一般に病室の照度は500ルックス(日本医療福祉設備協会の推奨値)とされる。これは通常の医療・看護行為に対応する照度であり(場合により...